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金沢地方裁判所 昭和34年(行)1号 判決 1962年11月30日

原告 谷口産業株式会社

被告 金沢税務署長

訴訟代理人 林倫正 外四名

主文

本訴のうち、自昭和二十九年四月一日至昭和三十年三月三十一日事業年度分法人税の賦課処分の取消を求める部分については、訴を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、まず原告の昭和二十九年度分法人税賦課処分の取消を求める訴の適否について検討する。

およそ本件のような法人税賦課処分の取消訴訟は、原告において法人税法第三千四条所定の再調査請求をなし、その決定を経た上更に同法第三十五条所定の審査請求をなし、その決定を経た後でなければ、原則としてこれを提起することができないものである(同法第三十七条第一項本文)。ところで、原告は、昭和三十一年六月十五日被告より右課税処分の通知を受けたので、同月十八日被告宛ての再調査請求書及び金沢国税局長宛ての審査請求書を金沢税務署に提出した旨主張するが、右事実を肯認するに足る証拠はないから、原告の右訴は、特例法第二条に違反し、不適法な訴というべきである。

二、次に、原告の昭和三十年度分法人税賦課処分に関する審査決定の取消を求める訴について検討する。

原告が金融業を営むことを目的として昭和二十八年四月十五日設立された株式会社で、事業不振のため昭和三十年十月十七日解散し、現に清算手続中であること、被告が原告に対し、昭和三十一年十月三十日付をもつて、原告の昭和三十年度における所得金額が金三百十一万三千二百円であるとして、本税額金百二十六万七千七百七十円、無申告加算税額金三十一万四千七百五十円とする旨の法人税賦課処分をなしたこと、及び原告が右処分につき不服の申立をなしたところ、金沢国税局長は、昭和三十四年七月二十三日付をもつて、「原告の同年度の所得金額金百三万千七百九円、本税額金三十八万七千六百八十円、無申告加算税額金九万四千七百五十円と認定し、原処分中右金額を超える部分は、これを取消す」旨の審査決定をなしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

ところで、原告は、右審査決定は所得金額を過大に認定した違法があると主張し、被告は、これに反し、その後調査の結果、昭和三十年度における原告の収入額は金百七十一万三千六百六十六円、支出額は金五十八万七千八十円で、差引前記認定の所得額を上廻る金百十二万六千五百八十六円の所得のあつたことが判明したから、右審査決定には何ら原告主張のような違法はない旨主張するので、以下果して被告主張のような所得があつたか否かについて判断する。

(一)  収入の部

(A)  貸付金利息

(1)  被告の貸付金利息に関する主張事実中、訴外千秋憲治(金二万四千円)、同村田まつ(金四万三千円)、同北仁三郎(金一万八千円)、同西村彰(金二千四百円)、同鍛治吉雄金三万六千円)、同小林しげ(金四万三千二百円)、同高柳すず(金七万四千六百四十円)、同長田竹吉(金三千三百円)、同向田家具店(金千円)、同広瀬弘(金六千三百円)に対する分については、いずれも原告の認めて争わないところである。

(2)  北昇造に対する利息について

成立に争のない甲第七号証、乙第二号証、乙第二十一号証の一、乙第二十二号証の一、二、乙第二十四号証、証人北昇造の証言(第一回)により真正に成立したものと認め得る乙第一号証、同証言(第二回)により真正に成立したものと認め得る乙第二十一号証の二、その方式及び趣旨により真正に成立したものと認め得る乙第二十九号証、同号証により真正に成立したものと認め得る乙第二十三号証、証人和田一男の証言により真正に成立したものと認め得る乙第二十六号証並びに証人北昇造(第一、二回)、同野村米男、同松田積造(第一回)、同和田一男の各証言を総合すれば、原告は、訴外北昇造に対し、

(イ)昭和二十九年十月十六日金二十万円、(ロ)同月十九日金十八万六千円、(ハ)昭和三十年一月十三日金九万八千円、(ニ)同月二十五日金四万八千円、(ホ)同月二十九日金十五万円、合計金六十八万二千円を利息はいずれも月六分の約定で貸付けたが、その後昭和三十一年七月十八日に至り右貸付金債権全部を訴外笹山作助に金百九十二万五千円で譲渡したこと(右債権譲渡の点は当事者間に争がない)が認められ、他には右認定を動かすに足る証拠はない。

右認定の事実に従えば、原告が右債権譲渡によつて得た金百九十二万五千円と訴外北に現実に貸付けた金六十八万二千円との差額金百二十四万三千円が右各貸付金に対する貸付当日より債権譲渡をなした昭和三十一年七月十八日までの利息として原告が支払を受けた額と認めるのが相当である。そこで、これを積数計算法により、各事業年度に按分すると、昭和三十年度分の利息は、金七十六万五百二十三円となる(右計算の内容は、被告主張のものと同一である)。

(3)  高林新一郎に対する利息について

成立に争のない甲第十六号証の一、二、甲第十三号証、その方式及び趣旨により真正に成立したものと認め得る乙第三号証、第二十七号証の一、二、証人加川貫の証言により真正に成立したものと認め得る乙第二十八号証の一ないし三並びに証人高林新一郎、同松田積造(第一回)、同寺本義治(第一回)、同加川貫の各証言を総合すれば、原告は、訴外高林新一郎に対し、昭和三十年十月二十七日現在で金、六十三万六千三百円の貸付金債権(同年六月三日頃より同年七月二十五日頃までの間に九回にわたつて貸付けた元本金五十五万八千六百円と同年十月二十七日までの利息金七万七千七百円との合計額を一口にまとめたもの)を有していたところ、更に、同人に対し、同年十月三十日金一万六千円、同年十二月二十五日金六万円、同月二十九日金二万円、昭和三十一年一月六日金一万三千円、同月十一日金十万円をそれぞれ貸付けたこと、そして、原告は、昭和三十一年二月十三日、右貸付金合計八十四万五千三百円とこれに対する同日までの利息金二十五万九百九十円及び同年四月十二日までの将来の前受利息金十四万千円との合計額金百二十三万六千三百円につき、同人をして、金額百二十三万六千三百円、満期昭和三十一年四月十二日、支払地、振出地共金沢市、支払場所北国銀行本店、振出日同年二月十三日、受取人原告なる約束手形一通を振出させたが、右満期に右手形金の支払がなされないとみるや、同年四月上旬頃、その代物弁済として右手形金額を上廻る価格を有する同人所有の金沢市中堀川町五十一番宅地四十八坪七合四勺及び同所々在木造板葺二階建家屋一棟の所有権を取得し、その頃原告代表者谷口四郎右ヱ門の妻谷口静枝名義に所有権取得登記手続を経由したことが認められ、右認定に反する甲第二号証の一ないし九は、前記各証拠と対比してたやすく措信できず、他には右認定を動かすに足る証拠はない。

右認定の事実に従えば、原告が訴外高林より前記貸付金債権の代物弁済として取得した不動産の価格は金百二十三万六千三百円を上廻るものであつたのであるから、原告は、右貸付により、少くとも右金百二十三万六千三百円と同人に現実に貸付けた金八十四万五千三百円との差額金三十九万千円を利息として取得したものということができる。そこで、これを積数計算法により、各事業年度に按分すると「昭和三十年度分の利息は、次のとおり、金三十六万三百六十九円となる。

(1,236,300円-845,300円)

×119,341,100/129,484,700 = 360,369円

貸付全期間の積数<省略>

係争事業年度の積数<省略>

(4)  新井芳信に対する利息について

原告が昭和三十年十二月十二日訴外新井芳信に対し、金十一万五千円を利息月六分の約定で貸渡したことは当事者間に争がなく、証人寺本義治の証言(第二回)により真正に成立したものと認め得る乙第六号証によれば、原告は、昭和三十一年八月十四日現在右貸付金の弁済を受けていなかつたことが認められ、他には右認定を動かすに足る証拠はない。

そこで、右貸付金に対する昭和三十年十二月十二日より昭和三十一年三月三十一日までの利息を計算すると、次のとおり、金二万五千三百円となる。

<表 省略>

(5)  水上松三郎に対する利息について

原告が昭和二十九年十二月三十一日訴外水上松三郎に対し金員の貸付をなしたことは、当事者間に争がなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認め得る乙第七号証によれば、右貸付金額は金五万円、利息は月六分の約定であつたことが認められ、そして、同人が昭和三十年四月下旬に至るまで右債務の弁債をしなかつたことは、原告の自認するところである。

そこで、右貸付金に対する昭和三十年度分の利息(期間十二ケ月、利率月六分)を計算すると 金三万六千円となる。

(6)  畑甚之助に対する利息について

成立に争のない乙第九号証及び証人畑甚之助の証言によれば、原告は、訴外畑甚之助に対し、金六万円を昭和三十年四月五日より同年八月十六日まで利息月六分の約定で貸付けていたことが認められ、他には右認定を動かすに足る証拠はない。

そこで、右貸付金に対する右貸付期間中の利息を計算すると、金一万五千八百四十円となる。

<表 省略>

(7)  渡辺博美に対する利息について

成立に争のない乙第十号証、証人渡辺博美及び同中川良一の各証言(右各証言中後記認定に反する部分を除く、その部分は措信しない)によれば、原告は、訴外渡辺博美に対し、金二十万円を昭和三十年十月十四日より昭和三十一年七月十八日まで利息月六分の約定で貸付けていたことが認められ、他には右認定を動かすに足る証拠はない。

そこで、右貸付金に対する昭和三十年十月十四日より昭和三十一年三月三十一日までの利息を計算すると、次のとおり、金六万七千二百円となる。

<表 省略>

(8)  長谷鐘に対する利息について

成立に争のない乙第十一号証及び証人瀬川貞次の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、訴外長谷鐘に対し、(イ)昭和二十九年七月三日金七万円を利息月六分の約定で貸付け、(ロ)更に、同年十二月十三日これに金十三万円を利息は前同様の約定で貸増して計金二十万円を昭和三十年十月二十日まで貸付けていたこと、及び原告は、昭和三十年十月二十日右各貸付金の元利金の弁済を受けたが、その際、債務者の懇請を容れ、利息債務のうち金二万円を免除したことが認められ、他には右認定を動かすに足る証拠はない。

しかして、右貸付金に対する貸付全期間中の利息は、左記甲表のとおり、金十四万五千六百円であり、又右貸付金に対する昭和三十年四月一日より昭和三十一年三月三十一日までの利息は、左記乙表のとおり金八万円であるところ、前認定のとおり、貸付全期間中の利息につき金二万円の債務免除をしたのであるから、これを各事業年度に按分すると、本件係争年度分は金一万九百八十九円(円以下切捨)となり、従つて、本件係争年度の利息収入額は、金六万九千十一円となる。

甲表<省略>

乙表<省略>

(B)  不動産処分益

被告は、原告が昭和三十年四月十四日訴外松田正一所有の家屋を金四十一万円で競落し、これを更に訴外畝佐一に金四十五万円で転売し、金四万円の利益を得た旨主張し、原告はこれを争うので、この点につき判断するに、成立に争のない甲第三号証の一及び乙第十八号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告の代表者訴外谷口四郎右ヱ門が昭和三十年四月十九日日金沢地方裁判所昭和二十九年(ケ)第二号不動産競売事件において、訴外松田正一所有の金沢市横山町一番丁五十番地の一所在家屋番号第六十番の三、木造瓦葺二階建居宅一棟を代金四十一万円で競落してその所有権を取得し、その後これを訴外畝佐一に売却したことが認められ、右認定に反する証人松田積造の証言(第一、二回)はたやすく措信できず、他には原告が右家屋を競落してこれを転売したことを認めるに足る証拠はないから、被告の右主張は採用できない。

(二)  支出の部

原告が昭和三十年度における損金として、給料金三十六万円、光熱費金五千円、通信費金三千円、電話料金二万四千円、事業税金六万五千七百五十六円を支出したこと及び雑費については金三千円を支出した限度においては当事者間に争がない。

ところで原告は、同年度に訴訟費用として金九万円、借入金利息として金二十八万七千円、旅費として金四万円をそれぞれ支出した外貸倒金二十二万三千円を生じた旨主張するので、以下この点について検討する。

(A)  訴訟費用

(1)  北昇造に対する関係で支払つた分について

原告は、昭和三十年九月十日頃弁護士普森友吉に対し、訴外北昇造に対する請求異議事件及び不動産競売事件につき訴訟委任をなしてその報酬として金六万七千二百円を支払い、又同年六月訴外北に対してなした執行費用として執行吏藻寄盛次郎に金一万九千円を支払つた旨主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない。

(2)  水上松三郎に対する関係で支払つた分について

原告は、昭和三十一年三月右藻寄執行吏に対し、訴外水上松三郎及びその保証人に対する強制執行の費用として金三千八百円を支払つた旨主張するが、右事実についてもこれを認めるに足る証拠はない。

(B)  貸倒金

(1)  北昇造に対する関係で生じた分について

原告は、訴外北昇造に対し合計金二百十万円を貸渡したところ、昭和三十一年七月十八日右債権全部を訴外笹山作助に金百九十二万五千円で譲渡したから、その差額金十七万五千円の損失を蒙つた旨主張するところ、原告がその主張の日に右債権を訴外笹山に金百九十二万五千円で譲渡したことは前記のとおりであるけれども、原告が訴外北に貸渡した金員の総額は金六十八万二千円であつて、金二百十万円でないことは前認定のとおりである。従つて、右債権譲渡により、原告はむしろ相当額の利益を得たものと認められるのであつて、原告主張のような損失を蒙るいわれはないから、右主張は到底採用できない。

(2)  新井芳信に対する関係で生じた分について

原告は、被告が昭和三十二年五月二十九日、原告が訴外新井芳信に対する金十一万五千円の貸付金債権の代りに取得した靴百足を差押え、その後金六万円でこれを公売処分に付してしまつたので、これにより、原告は先取利息金六千九百円を控除してもなお金四万八千百円の損失を蒙つた旨主張するが、原告がその主張のように右靴の所有権を取得したことを認めるに足る証拠はないのみならず、仮に原告主張のとおりであるとしても、その損失の確定したのは右公売処分後(右公売処分の時期が昭和三十二年五月以降であることは原告の主張自体によつて明らかである)であるから、これを昭和三十年度における損失とみることはできず、従つて、原告の右主張もまた採用できない。

(C)  借入金利和息

原告は、昭和三十年度中に訴外谷口由松等より営業資金約四百万円を借入れ、その利息として合計金二十八万七千円を支払つた旨主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない(しかし、右借入金利息中、金九万千五百円については被告においてこれを認めて争わないところである)。

(D)  旅費

原告は、同年度中に旅費として金四千円を支出した旨主張するが、右事実についてもこれを認めるに足る証拠は全くない。

以上認定のとおりであるから、昭和三十年度における原告の所得を計算すると、次のとおり、金百三万三千八百二十七円となる。

(1)  収入の部

貸付金利息

北昇造に対する利息    七六〇、五二三円円

高林新一耶に対する利息   三六〇、三六九円

千秋憲治に対する利息     二四、〇〇〇円

新井芳信に対する利息     二五、三〇〇円

水上松三郎に対する利息    三六、〇〇〇円

村田まつに対する利息     四三、〇〇〇円

北仁三郎に対する利息     一八、〇〇〇円

畑甚之助に対する利息     一五、八四〇円

渡辺博美に対する利息     六七、二〇〇円

長谷鐘に対する利息      六九、〇一一円

西村彰に対する利息       二、四〇〇円

鍛治吉雄に対する利息     三六、〇〇〇円

小林しげに対する利息     四三、二〇〇円

高柳すずに対する利息     七四、六四〇円

長田竹吉に対する利息      三、三〇〇円

向田家具店に対する利息     一、〇〇〇円

広瀬弘に対する利息       六、三〇〇円

計          一、五八六、〇八三円

(2)  支出の部

給料            三六〇、〇〇〇円

光熱費             五、〇〇〇円

通信費             三、〇〇〇円

電話料            二四、〇〇〇円

雑費              三、〇〇〇円

事業税            六五、七五六円

借入金利息          九一、五〇〇円

計            五五二、二五六円

(3)  差引利益金(所得)一、〇三三、八二七円

右のとおり、原告の昭和三十年度における所得金額は金百三万三千八百二十七円であるところ、前記審査決定においては、これを下廻る金百三万千七百九円を以てその所得金額と認定したのであり、そして、右認定の所得金額に対する本税額が金三、十八万七千六百八十円、無申告加算税額が金九万四千七百五十円であることは計算上明らかであるから、右決定には原告の主張するような違法はない。

三、以上の次第で、本訴のうち、昭和二十九年度分課税処分の取消を求める部分は、不適法であるから、これを却下し、昭和三十年度分課税処分に関する審査決定の取消を求める部分は、その理由がないから、これを棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田正武 松岡登 高沢嘉昭)

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